5000万円をS&P500に投資すれば一生暮らしていけるのか?

少し前にTwitterで「5000万円稼げば人生ゲームクリア、S&P500に全額投資しておけば毎月20万引き出しても破産しない」という話が話題になっており、早期リタイアを目指す立場からも非常に興味があったので、出来る範囲で簡単に検証してみました。検証のおおまかな条件は以下です。

  • 1950年~2009年の60年間を開始年とし、各年から40年間(もしくは2018年)を運用期間としてシミュレーション
  • 開始年に5,000万円を当時の為替レートでS&P500資産化
  • 開始年は毎月25万円(税引後に20万円にするため)の生活費をその時点の為替レートでドル転し、ドル資産から差し引く
  • 生活費は物価上昇率に従って増減させる

※ この記事で登場する資産額推移のグラフは、すべて円換算したものです。

シミュレーション結果

破産を免れた年は約半数

全60年分の中で最終的に破産を免れたのは、次の31年分でした。

  • 1950年開始
  • 1978~98年開始
  • 2001~2009年開始

おおまかに言うと、1977年以前はほぼ全滅、1978年以降はおおよそ現代まで生存できる、ただしITバブル前後は別、という感じです。

40年間運用可能な年のうち、生存はわずか1年のみ

40年間の運用が可能な1950~1977年の28年分に絞ってみると、破産を免れた年は1950年開始の1件のみでした。主な要因は円高と物価上昇です。次のドル円為替レートのグラフからわかるように、1970年以降の10年で一気にドル資産は半減、最終的には70~80%以上減ってしまいます。

また、下に示す消費者物価上昇率のグラフからわかるように、1980年代半ばまでは物価上昇がかなり激しい(20%超えの年もある)ことから、生活費もどんどん上がっていきます。

1970年代以前に開始したケースでは、これら期間の影響をもろに受けるため、ほぼ全滅という結果となりました。

生存と破産の狭間をもう少し詳しく

助かった年、破産した年の境界付近を確認することで、生存と破産を分けた要因をもう少し詳しく見ていきます。

1950年付近

まず、かなり意外なのが1950年です。早期の開始年では、いずれも為替とインフレで破産していったわけですが、1950年だけはなぜか助かっています。

1950年開始だと40年経過後に4倍程度の資産額で安定しているように見えますが、わずか1年後1951年開始では、36年後の1987年に破産しています。

為替とインフレ率の条件はまったく同じなので、原因は資産額ということになりますね。

グラフではほとんどわかりませんが、1950年のS&P500指数は17.05、1951年は21.66と1年の間に約27%値上がりしています。これによって、開始時のドル換算資産額も1950年の方が約27%大きくなっています。この条件の違いが運用によって増幅され、ピーク時の資産額では40%以上の違いになっています。

為替や物価上昇率の影響が目立ちますが、やはり絶対的な資産残高も大きな要因なのだと思わされる年です。

1978年前後

続いて1978年前後です。このあたりを境に、(ITバブル期を除いて)概ね現在まで生き延びられるようになります。

要因は、まずは為替です。1970年代を通して大きく進んだ円高が一段落するのがこの年です。1977年に291円だったドルは、1978年には241円と大きく値下がりした結果、開始時の円換算資産額で考えると1年で20%超増加したことになります。

また、同様に1970年台に吹き荒れた10%を超える物価上昇率が一段落したのも生存要因の一つと思われます。2018年時点での生活費で比較すると、1978年開始の場合は約39万円ですが、1950年開始の場合は約190万円にもなります。

こうして、わずか1年の開始年の違いが、24年で破産するか、40年以上生存して資産が10倍を超えているかの違いにつながったわけです。非常に恐ろしいですね。

1999年前後

この年を見ればおおよそ見当がつくと思いますが、1999~2001年が助からなかった理由は、ITバブルによる高騰期に開始してしまったためですね。為替や物価の大きな変動はなく、影響は大きくありません。

1997年~2003年開始の資産推移は次のようになっています。

破産期間の前後にあたる1998年と2002年に開始した人も、2018年時点での資産額は1,000万円近くまで減少しているため、遠からず破産するでしょう。しかし、2年後の2003年に開始した人は現状まで生存した上、1億近くまで資産を増やしています。

では、2003年以降にはじめていれば安泰なのかというとそうでもなく、2004~2008年開始の場合も資産は横ばい傾向で、今後米株が下落に転じるようなことがあれば破産も視野に入ってくる状況です。

ITバブル、リーマンショック等の大きな下落で一度資産が目減りしてしまうと、その間も引き出しが続くことでさらに資産が減ってしまい、その後に大きく相場上昇したとしてもその恩恵を受けきれないことが見て取れます。いわば逆ドルコスト平均法的な状況です。

目標資産額に達した時点で引退することを考える場合、適切な年を選ぶことは思った以上に重要であると感じます。適切に選ぶことが難しいのであれば、それなりのバッファを積むしかありません。

結果をながめてみての感想

実際計算してみるまでは「大きなバブル期にはじめていなければ大丈夫なんじゃないか?」と楽観的に考えていたんですが、まったく異なる結果となり、非常に驚かされました。特に、(言われてみればそりゃそうかという感じなんですが)為替とインフレの影響が絶大であったことは大きな衝撃でした。

とはいえ、1990年以降現在に至るまで、物価・為替ともに落ち着きを見せており、我々が今後の行動を決めるにあたってはあまり参考にならないと考える立場もあると思います。

しかし、日銀は極端な金融政策でインフレを推進していますし、その結果為替は購買力平価・金利平価から見て大きく歪んでいるようです。ここ30年のような平穏な物価・為替環境が維持されるかについては、ますます疑問符がつくようになってきています。

もちろん、円安によって外国資産がむしろ有利になるシナリオも十分考えられますが、有利になるにせよ不利になるにせよ、外国資産で生計を立てようとするのは想像以上に大きなギャンブルなのだな、という感想を持ちました。

また、1950年と1951年、1977年と1978年のように、わずか1年の違いが言葉どおり天と地ほどの差となって現れるのも大きな衝撃です。これら適切な年を、私は、我々は果たして正しく見極めることができるのか…?

暇ができれば、いくらあれば同条件で安全にリタイアできるのかについても確認してみようと思います。

利用したデータ

計算方法

次のような方法で計算しています。もし計算間違ってたらすみません…

  1. S&P500資産(ドル)への初回一括投資
    • 5000万円を開始年度の為替レートでドル資産化する
    • 為替、株式売買ともに手数料は考慮しない
    • 為替差益/差損による課税も考慮しない
  2. 生活費(ドル)の算出
    • 引き出し額は25万円(税率20%で手取りが20万となるように設定)
    • 当月の為替レートでドル換算して算出
  3. 当月資産残高(ドル、円)の算出
    • 1の資産額から2の生活費を差し引き、当月の資産残高を算出する
    • 当月の資産残高を当月為替レートで円換算し、円での資産残高をプロット
  4. 翌月資産(ドル)へのS&P資産価格変動の反映
    • 翌月のドル資産は、前月の資産残高に対して「当月のS&P指数÷前月のS&P指数価格」を掛けて調整
  5. 配当の算出と加算
    • 前月の資産残高に対して配当率を掛けた値を当月の資産残高に加算
    • 配当受領時の税金は考慮していない
  6. 翌月資産残高の算出
    • 2と同様の手順で新たに算出した生活費を5から差し引いて当月資産残高を算出し、プロット
  7. 以降、4~6の手順を以下の条件を満たすまで繰り返す
    • 40年間経過する
    • 2018年8月に到達する
    • 資産残高が0以下になる
  8. 開始年として1950~2009年の60年を対象とし、1~7の手順を実行する
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“5000万円をS&P500に投資すれば一生暮らしていけるのか?” への6件の返信

  1. 大変興味深い試算結果ですね。
    ところで疑問なのですが、税引きの条件設定が少し厳しすぎなのではないでしょうか。
    引き下ろし額全額ではなく、購入時と引き下ろし時の基準価格の差分だけが課税対象なのではないでしょうか。(今の試算ですと、購入時基準価格=0円となっています)

    1. ご指摘ありがとうございます、仰る通りですね。記事の計算だと、特に初期の税負担がかなり過大になるので、悪影響が大きそうです。月額25万円の生活費で税考慮なし、として見ていただいた方が良いかもしれません。
      税率の変遷まで取り込むのは厳しいですが、ご指摘の部分を修正した版はまたどこかで出し直そうと思います。今手元に環境がないのでもう少し先になってしまいそうですが…。

  2. とても面白い記事ありがとうございます

    >暇ができれば、いくらあれば同条件で安全にリタイアできるのかについても確認してみようと思います。
    是非是非続編期待しています\( ˙▿˙ )/

    1. コメントありがとうございます!
      この記事を読んでいただいた方で、追加検証をしてくださっている方がいらっしゃったのでご紹介させていただきます。

      30代後半からの人生イージーモード
      「5000万円をS&P500に投資すれば一生暮らしていけるのか?」追加検証と考察 その1
      http://blog.livedoor.jp/clabi/archives/12168957.html

      本記事では毎月25万円(年間6%)を引き出しているわけなのですが、追加検証では3~4%ならどうなるかについて検証されています。
      結構厳しいみたいですね…。

      1. 別途記事にするかどうかはわかりませんが、税金計算厳密化バージョンでいくらあれば耐えられるか確認してみました。

        結果、1億3,000万円では1966年(ITバブルで力尽きる)と1969年(リーマンショックで殴り倒される)で破産、1億4,000万であれば全ケースで生存しました。

        ただし、ここまで開始時の資産が多いと、破産しやすい不利な期間を除くとすさまじく資産が増えているため、不利期間に対する手当はもはや生活保護を含む社会保障で良いのではないかと思います。年金もありますし。個人的な感覚としては、通貨や資産クラスを分散すればインフレや為替リスクも低減できるので、これらをあわせて1億円もあれば良いかな、という感想を持ちました。

  3. 税金の計算をより厳密な形で試算してみました。具体的には、売却時の税率は20%固定ですが、きちんと値上がり分にのみ課税するようにし、税を控除した状態で生活費の20万円(+物価上昇分)が手元に残るように、税金分多い額を取り崩すようにしてみました。

    結果として、傾向はほとんど変わらなかったのですが、追加でいくつか助かる年が出てきました。具体的には、以下の4年です。

    ・1951年
    ・1999年
    ・2000年
    ・2001年

    本記事で破産の境にいた年が助かっている格好ですね。しかし、いずれも残額は500万円以下にまで減っているため、本当の意味で助かったと言って良いのかはあやしい水準で、ここからも大きな傾向に変化はないことが確認できたかと思います。

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