投資本の雑な感想:米中戦争前夜

Financial Pointerの以下の記事に触発されて読んでみました。原題は「Destined for War」だそうです。

レイ・ダリオ:今読むべき2冊、聴くべき2話

この本は、「トゥキディデスの罠」と呼ばれるパターンが歴史上繰り返し現れており、これが戦争を引き起こしていること、そして米中関係もこれに当てはまる、ことが述べられています。ちなみにトゥキディデスは、古代ギリシャの覇権都市国家スパルタと、新興都市国家アテネが起こしたペロポネソス戦争について、つぶさな記録と考察を残した歴史学の父だそうです。世界史で習ったような。

トゥキディデスの罠

トゥキディデスの罠は、新興国の台頭によって覇権国が既存の秩序を脅かされたと感じ、不安を抱くことで幕を開けます。新興国は急速に力をつけた結果、その力に見合う発言権と敬意を求めるようになり、逆に覇権国側は既存の秩序を維持しようとするため軋轢が生まれ、最終的に戦争に至るわけです。

その程度の軋轢で戦争に?とも思いますが、これに該当する歴史上の状況の多くで、当事者国は似たように軽く考えていたことが描かれています。しかしながら、国民からの突き上げや同盟国に対するメンツ、一度引くと既存の秩序が崩壊するかもしれない恐怖、また躍進の機会が永久に失われてしまうかもしれないという恐怖から、ここで引くなら戦争した方がましだという考えに至ります。そして、一度戦争がはじまってしまうと何もかもコントロールできなくなって大惨劇に至るのです。

トゥキディデスの罠が示す覇権国と新興国の軋轢は歴史上16件確認されており、そのうち12件(75%!)で戦争に発展しました。

投資の観点から得られるものは?

投資の観点から得られる情報は、実際のところあまり多くありません。米中が戦争に至る可能性は想像以上に高いと考えるべき、それだけといえばそれだけです。既存覇権国と新興国、どちらが勝つのか教えてくれるわけでもありません。

しかしこうなった場合、米中は一時的にせよ想像以上に弱体化する可能性があります。米中にあまり多くを賭けすぎるのは考えものかもしれません。また、日本は当事者国でないにもかかわらず、大きな打撃を受ける可能性が高いです。EU、インド、南米あたりは避難先となり得ることを考えると、思った以上に重要かもしれません。

面白かった/気になった点

雑な所感の羅列になりますが、興味深く感じた点をいくつか。

中国は経済力で既にアメリカを上回っている

中国は対外的には市場為替レートで経済力を評価していますが、購買力平価ベースでは既に多くの指標でアメリカすら上回っており、国内向けにはこちらの数字を使っているとのこと。これは覇権国家ですわ。

アメリカは相変わらず日本のことをまるで理解していない

この本、新興国と既存覇権国の軋轢を散々扱っておきながら、21世紀初頭まさに東アジアの既存覇権国家日本と新興国家中国の間で軋轢が発生し、トゥキディデスの罠的状況が発生している/いたことに一切触れていません。

一応、米中が戦争に至るシナリオとして日本が火種になるケースも多少考慮はされていますが、全般的に日本の立場から東アジアの状況を考察することを一切していません。同様に、朝鮮半島二国から考察もゼロです。

ペロポネソス戦争で同盟国の行動がどれだけ重大な結果を招いたのかについてあれほど述べておきながら、この有様なのはがっかりします。この本、邦題とは違って米中戦争を回避するための考察を重ねた本なのですが、これでは戦争回避は期待しづらいな、と思ってしまいました。

新興国時代のアメリカもたいがいひどい

今でこそアメリカは覇権国家であり、既存のルールを守れという立場ですが、アメリカが勃興してきた時代には、今の中国と同じかそれ以上に既存の国際秩序やルールなど無視してやりたい放題やってました(そういう話もこの本にたくさん出てきます)。

それを考えると、今の国際秩序を絶対視するのも偏っているのだろうし、中国が「そのルールは我々が国際舞台に出る前に作られたものだ」と反発する気持ちもよくわかります。既存秩序側の近隣諸国からするとえらい迷惑ですが。

中国が目指す世界観は思った以上に日本に近い

本書では、ハンチントンの文明の衝突を引き合いに出しながら、西欧諸国が広く共有する「必要悪としての政府」「個人の独立と自由」「民主主義」「法の支配」「三権分立」「自由競争市場」「問題の早期解決」といった価値観が、中国の伝統的な価値観と相容れないことが深刻に語られています。

しかし、中国が伝統的に持つとされている「善なるものとしての政府」「秩序の重視」「序列の中の個人」「課題に対する長期的な取り組み」といった価値観、もしこれが本当であれば、思った以上に日本とかぶってませんか?

日本の社会や経済は欧米諸国と比較して、競争が不足し、不透明で、法の支配が確立しておらず、行政と立法の分離が不十分、課題への対応が遅い、といったように批判が多いわけですが、これは中国をルーツとする儒教的価値観が強く残っている結果であり、覇権が交代して中国的価値観が支配的となった世界では逆に親和性が高くなる可能性があります。

私は個人的には欧米的価値観の方が居心地が良いので、中国が支配する世界になってほしいとは思いませんが、中国的価値観に支配された世界を素直に受け入れる人も、意外とそれなりにいるのかもしれません。

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