投資本の雑な感想:勘違いエリートが真のバリュー投資家になるまでの物語

バリュー投資家として有名なガイ・スピアの自伝的著作です。タイトルは”投資本”としていますが、これは一般の投資本によくあるような投資理論やその実例について説明した本ではありません。そうした内容を期待して読むと肩透かしを食らうのでご注意を。

本書はむしろ、彼が自身の厄介なメンタルと格闘し、失敗を繰り返しながら自分に合った投資スタイルを少しずつ身につけ、それを通じて自分が望む人生に気づいていくという物語です。大半の部分は投資を志す人が自分を重ねて楽しむ、ある種の bildungsroman(自己形成小説/成長小説)であり、おまけとして少しだけ彼が採用している投資ルールやツールが紹介されている、というのが近いと思います。

特徴的なタイトルからはある種のスノッブさを感じて敬遠する人もいるかもしれませんが、原題は The Education of a Value Investor、直訳すると「あるバリュー投資家の育成」といったシンプルなタイトルです。著者の語り口は率直で、自分を”真のバリュー投資家”などと名乗るような人物像からは程遠いものです。

自分を理解し、受け入れ、極める長い旅

ガイ・スピアはハーバード主席卒業のエリートで、過剰な自意識を抱えて無知のままウォール街の評判の悪い企業に飛び込み、最終的に挫折してしまいます。そこから自分が抱えるメンタルや考え方の問題に少しずつ気づいていき、自分を受け入れ、望むものを知り、近づくための長い旅がはじまります。

偏屈だった心を開き、自分の欠陥を受け入れ、それに対応できるようなマインド、習慣、環境を少しずつ構築していくことでガイ・スピアの人生は少しずつ好転していきます。その過程ではパブライのような無二の友やバフェットのような師も得て、彼らから人生にとって重要なことをいくつも気づかされていきます。

娯楽小説ほどの劇的な展開はありませんが、自身の欠陥や挫折を隠さず、師や友への好意を率直に語るガイ・スピアには好意を抱かずにはいられません。読み終わったときには、ガイ・スピアだけでなく、パブライやバフェットのことも好きになっているんじゃないでしょうか。

メンタルと投資の分かち難い関係

ここまでは本書を著者の成長物語の側面から見てきましたが、投資の側面からこの本が強く訴えかけてくるのは「適切なメンタルを維持できない限り、継続的に投資で成功し続けることは難しい」ということです。また「メンタルを変えることには一定の限界がある」ということがこの問題をさらに難しくします。人間の脳は狩猟採集時代の原始的な配線から逃れられないし、また生育の仮定で構築された空想上の現実も、想像以上に強固で抗うことが難しいのです。

私が最高の投資効率を追い求めることにほとんど興味を持てないのは、仮にそれが本当に最高の投資法だったとしても(それは誰にも一生わからないのではと疑っていますが)、自身のメンタルに適合していない限り、継続して投資を続けるのが難しかったからです。

なので、理論上リターンが良い手法を採用するとか、単に投資成績が良い人を真似するとか、そういうことにはあまり意味がないように感じています。投資は理論上最高のリターンを得られる手法1つだけあればいい、といった話は本当によく耳にしますし、そう言い切れる人はすごいとも思いますが、少なくとも私にはうまく当てはまりませんでした。

また、投資効率至上主義から離れたとしても、投資手法同士で優劣を競うのも不毛に感じます。例えば、ある人にとってはインデックス自動積立でほったらかして市場リターンを得ることが最適だったとしても、別の人に取ってはこの退屈さは耐え難いかもしれません。その場合、彼のメンタルに合った別の環境やルール、手法(トレードかもしれないし、バリュー投資かもしれない)を模索することはむしろ適切だと思います。

要するに、自身の心と喧嘩しながら(もしかしたら短期間)最高のリターンを得るより、自身の心に沿った形で長期的にそれなりのリターンを得る方が長い目で見て利益の面でも人生の面でも良い結果を得やすいというのが私の考えです。この本を読み、ガイ・スピアが苦しみながらも似た考えに到達していることを知り、とても共感し、また勇気づけられもしました(もちろん投資の技量は天地の差といっても足りませんが)。

投資のためのツール

投資ルール

スピアは、投資にあたってのルールをいくつか定めています。ルールといっても”10%で損切りする”といったトレードの細かいルールではなく、頻繁にマーケットを見ない、とか、人に薦められた金融商品は買わない、といった行動原則のようなもので、自身のメンタルが意図せず引き起こす悪影響を軽減し、自分をうまくコントロールし続けるためのものです。

  1. 株価は頻繁に見ない
  2. 人に薦められたものは買わない
  3. 経営陣とは話をしない
  4. 投資の調査は正しい順番で行う
  5. 自分の投資アイデアの相談は下心がない人だけにする
  6. マーケットの取引時間中の株を売買しない
  7. 株を買った後に下がったら、二年間は売らない
  8. 現在の投資について語らない

私達のメンタルのうち、生物としてハードコードされている部分は共通なため、この部分に関するルールは全員で同じものを利用できますが、生育過程で構築された空想上の現実は個々に異なるのでこちらに関するルールは単純に真似てもうまく働く保証はありません。また、投資への取り組み状況も個々に異なるため、結局は自分のメンタルや投資と向き合い、自分に適したルールを作り上げる必要がありそうです。

私自身のルールは以下の2つぐらいしかありません。スピアの4、7、8は私も採用したいと考えています。

  • 多くの人が話題にし、群がり、急激に上昇している金融商品には近づかない
  • 人に薦められた商品は買わない(これだけはガイスピアと同じ…)

チェックリスト

明らかかつ予測可能な間違いを避けることが目的のもので、投資の最終判断の直前に自分の脳が明らかな間違いに気づかず決定を下してしまうのを防ぐ役割を果たします。リストの内容は個人の経験によって大きく異なります。例えばスピアの場合、投資した企業のCEOが個人的な金銭トラブルを抱えていたことから、正しい経営判断ができなくなってしまった経験から、以下のようなチェック項目を抽出していました。

主な経営陣のなかに、株主の利益のために行動する能力に影響を及ぼすほどの個人的な問題を抱えている人はいないか。また、経営陣が過去に利己的でバカげた行動をとったことはないか。

パブライやスピアは、投資仲間を集めて過去の失敗をすべて集め、そこからルールを抽出したそうです。残念ながら私には投資仲間がいないので・・・自分の失敗から1つずつ作っていくしかなさそうです。

投資の実践的なテクニックが得られる本ではないという意味で、投資本として万人におすすめできる本ではないんですが、メンタルとの付き合い方に苦慮している人や、そのために工夫を重ねている人、重ねてきた人にとっては非常に刺さる本だと思います。

あ!帯にでかでかと書いてある「バフェットとのランチ権を65万ドルで買った男!」は、嘘とは言わないまでも半分詐欺みたいなもんだと思いましたよ!

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