投資本の雑な感想:ディープバリュー投資入門

オリジナルのタイトルは The ACQUIRER’S MULTIPLE – How the Billionaire Contrarians of Deep Value Beat the Market。直訳すると「企業買収者の投資尺度 − 極度の割安銘柄を狙う億万長者の逆張り投資家は どのようにして市場を打ち負かすのか」といったところでしょうか。

バリュー入門書としてかなりおすすめ

この本、タイトルから難しい本なのかなぁという印象を受けていたんですが、読んでみるとバリュー投資の入門書としてかなり良い本でした。投資に詳しくない家族が数時間で読めるように書いたそうですが、確かに非常に読みやすいです。

バリュー投資というアプローチは、割安株を買うというくらいの意味あいとしては非常に理解しやすいものですが、実際に割安かどうかを判断する方法に踏み込むと、収益であったり、資産であったり、事業の性質を加味したり、事業を無視して統計的なデータのみを使ったりと、かなり多くの方法がある上、必要なスキル・ツール・知識もそれぞれで大きく異なっていたりします。

バリュー投資のうちどういった手法を選ぶかを決めるにあたって、選択肢を知ること、すなわちバリュー投資の世界の地図を持つことは、投資の初期に迷う時間を減らしてくれるという意味で、非常に有用です。

この本では、①グレアム・初期のバフェットが用いた資産に着目したアプローチ、②事業の濠に注目するバフェットのアプローチとその一部をルール化した魔法の公式、そして③買収者の投資尺度(マルチプル)を使うアプローチ、の3つを物語をまじえつつわかりやすく紹介しており、入門書として非常に良いものと感じました。

主張は非常にシンプル

この本の主張は、要約すると以下に集約されます。

  1. 利益は平均回帰することから、適度に分散した逆張りは報われる
  2. グレアムの手法 < バフェットの手法 ≒ 魔法の公式 < 買収者の投資尺度

株価、すなわちマーケットの値付けが平均回帰するのはよく知られていますが、個々の事業の利益が平均回帰するというのは信じて良いか迷うところがあります。その理由はおそらく競争だと語られていますが、それだけでは対象企業が撤退側にまわるか、生き延びて利益を回復させるかは判別できません。分散を勧めているのはこの部分が不確定だからでしょう。

手法の優劣について、バックテストではこうなったそうですが、実際に言い切ってしまって良いかは私にはちょっと判断がつきません。それぞれのアプローチには向いている状況とそうでない状況があるようにも思います。また、バックテスト結果で良い成績を残せていることを根拠に優れているというのはさすがに危ういとも感じます。

まぁそれはそれとして、買収者の投資尺度とは何なのかを見ていきます。

買収者の投資尺度とは何か?

買収者の投資尺度(Acquirer’s multiple)とは、その名のとおり企業買収の実務者が企業価値を計るときに使う指標です。具体的な計算方法は以下です。

  • 企業価値(時価総額+負債総額ー現預金) ÷ 営業利益(EBIT)

企業価値(Enterprise Value、EV)とは、その企業を買収する際に必要な実質的な金額です。株式時価総額で企業を買収はできますが、その企業が負債を抱えていればそれを返す必要があるため、必要額に上乗せされます。また、現預金を持っていればその分は買収と同時に手に入ることになるので、必要額から差し引きます。

営業利益(EBIT)は、純利益に税と支払利息を足し戻したもので、主に負債の影響を除去して負債比率の異なる企業間で利益を比較できるようにしたものです。EBITDAではなくEBITとしているのは、減価償却費は営業費用の適正な一部とみなすべきと考えているからでしょう。

EV/EBITが何を表すかというと、その企業が稼ぎ出す利益の何年分で企業が買えるか、というもので、要するにPERと似た指標です。ただ、PERと違ってPrice部分には現預金や負債等の資産内容が加味されており、Earning部分には支払利息と税の影響が除去されており、より多くの要素が考慮されています。

また、資産に着目するグレアムに近いアプローチでは、場合によっては適正な企業価値を計ることが難しくなりますが、買収者の投資尺度では時価総額、負債、現預金のみを用いるため、算出が容易というメリットもあります。

Yahoo FinanceやバフェットコードでもEV/EBITDAは掲載されているため、PBRとPERのハイブリッドのような指標として使うことができます。ただ、EBITではなくEBITDAでは減価償却も足し戻されてしまうため、本書に比べると減価償却が大きい設備産業が割安に見えてしまうと思われます。

買収者の投資尺度は使えるのか?

実際にEV/EBITDAでスクリーニングした結果を見ていたのですが、いつもの自動車部品関連に加え、何かしらの要因で今年利益が急騰した企業が多くかかりました。本書では何も考えずEV/EBITが高い株を買う方が成績が良い、とされていましたが、やはり事業内容や過去数年間の業績は見ないと怖くて買いづらいなぁと思いました。。

個人的には、EBITDAを過去5年平均くらいにすれば、バックテスト結果はともかくとして、スクリーニング指標としては使いやすくなる気はしました。いずれにせよ、EV/EBITDAだけで買うのは怖いので、PBRと組み合わせて使おうかなと思っております。

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