投資本の雑な感想:ファクター投資入門

伝統的な資産評価モデル(CAPM)は市場全体との連動度合い(市場ベータ)のみを考慮したものですが、その後バリュー、サイズといった他の複数の要素を組み込んで資産を評価するモデルに発展しました。これをマルチファクターの資産評価モデルと言い、本書はその入門という位置づけになります。

目次は次です。

監修者まえがき
謝辞
序文
まえがき

第1章 市場ベータ
第2章 サイズファクター
第3章 バリューファクター
第4章 モメンタムファクター
第5章 収益性・クオリティのファクター
第6章 タームファクター
第7章 キャリーファクター
第8章 プレミアムは広く知られると減少するのか
第9章 さまざまなファクターからなるポートフォリオを実践する
結論

付録A トラッキングエラーリグレット――投資家の敵
付録B スマートベータの真実
付録C 配当は有効なファクターたり得ない
付録D 低ボラティリティファクター
付録E デフォルトファクター
付録F タイムシリーズモメンタム
付録G ファクターを増やすことで得られるファンドリターンの限界効用
付録H スポーツくじと資産評価
付録I サイズプレミアムを再評価する
付録J 実践――投資信託とETF

1〜7章は各ファクターのカタログになっており、8〜9章と結論でいったん本論は終わりますが、ここまでで紙幅の約半分。残りは付録ながら、それぞれが読み応えある独立した読み物となっています。

ファクター投資の狙い

主な狙いは、CAPMがアルファと呼んだプレミアムをもたらすファクターを特定・利用し、超過利潤を得ることです。そしてさらに、インデックス投資家が資産クラスを分散させてシャープレシオを改善するのと同様に、ファクターを分散させることでシャープレシオの改善を狙います。

本書で有効として取り上げているファクターは、市場ベータ、サイズ、バリュー、モメンタム、収益性、クオリティ、ターム、キャリーの8つです。

インデックス投資と多様な戦略との間に橋をかける

マルチファクター戦略で投資を実行する場合、基本的には各ファクターのエクスポージャーを高めたETFを組み合わせ、ポートフォリオのシャープレシオを改善する形になると思います。実際、本書の巻末ではそのための具体的な商品も紹介されています。

そして、分析で有効とされたファクターには悉く、対応する有名な投資戦略が存在します。選びぬかれたファクターは市場平均に対してプレミアムを持つ(ことになっている)のだから当然でしょうね。マルチファクターモデルはインデックス投資とそれ以外の多様な戦略をある程度同一の枠組みで評価することを可能にしたという意味で、反目しがちなインデックス投資とその他戦略との間に橋をかけるものと思います。

個別株投資への影響

これらファクター分析で用いられる指標は、例えばバリューの場合はPBRやPER等、非常にシンプルかつ粗雑なものです。しかし、実際に個別株でファクターに対応する投資戦略を実践する場合は、単純な指標だけでは捕捉が難しい複雑な財務・株価指標や、質的情報も利用します。

それでは、ファクター分析が捉えた各ファクターの持つプレミアム・リスクの大きさや他のファクターとの相関等の特徴が全く役に立たないかというと、私個人はそんなことはないと思います。

戦略が持つ補正効果を知る

ファクター分析が捉えたそうした特徴は、その戦略の下限効果…粗雑で拙い方法を用いた場合の補正効果を示している、と考えられます。

例えば、株式投資はプラスの期待値を持っているので、なるべくマーケットにとどまることが重要である、とはよく言われることですが、これは株式リスクプレミアム(≒市場ベータファクターのプレミアム)がリターン(とリスク)にプラスの補正をかけてくれる、という意味です。

同様に、バリュー戦略を取る場合には、その上に積み上げた戦略が拙くとも、ある程度はバリューファクターが持つ補正効果を期待できる、ということです。ファクターの具体的な特徴は後述しています。

訳と構成に若干の難有り

このように非常に面白げな本なのですが、書籍としては欠点も目立ちます。まず、カタログ部分が非常に読みづらいです。これは、原著の構成や文体が論文調で非常に堅いということに加え、翻訳に品質が若干低いせいですね。。あまり見聞きしない用語にも関わらずそのままカタカナ英語に訳出したり、直訳気味の堅い文体だったりします。単純な訳語の誤りもちらほらと…。

また、これも前半のカタログ部分に顕著ですが、ファクターの評価がどの程度の信憑性を持ったものなのかは、拠り所として大量に引用された論文を確認しないとわかりません。本書を読んだだけでは検証期間や細かい検証条件が不明なためどこまで鵜呑みにして良いかわからず、話半分程度に聞いておくか…となってしまいます。読めばいいんでしょうが、さすがに多すぎてちょっと…

有効とされるファクターの特徴

ここからは例によって個人用のメモコーナーです。本書で有効とされたファクターと特徴として、相関、リスク・リターン、市場に劣後する確率を掲載しています。なお、各ファクターはすべてロング・ショートで構成されています。

ファクター同士の相関(1964-2015)

市場ベータサイズバリューモメンタム収益性クオリティ
市場ベータ1.000.29-0.27-0.17-0.27-0.52
サイズ0.291.000.01-0.12-0.22-0.53
バリュー-0.270.011.00-0.200.090.04
モメンタム-0.17-0.12-0.201.000.080.30
収益性-0.27-0.220.090.081.000.74
クオリティ-0.52-0.530.040.300.741.00

なかなかに興味深いです。市場ベータはサイズに強めの正の相関、バリューと収益性に強めの負の相関、クオリティに強い負の相関を持っています。マーケット全体が上げている場面では、小型株がアウトパフォームし、バリュー・収益・クオリティは劣後するということですね。また、サイズとクオリティに強い負の相関があるのも面白いですね。

まぁ、引用論文によってはファクター名が同じでも相関係数がまったく異なっているものもあり、やはりあくまで話半分かな、という…

リターン、リスク、シャープレシオ(1964-2015)

平均リターン標準偏差シャープレシオ
市場ベータ8.3%20.6%0.40
サイズ3.3%13.9%0.24
バリュー4.8%14.1%0.34
モメンタム9.6%15.7%0.61
収益性3.1%9.3%0.33
クオリティ3.8%10.0%0.38
市場ベータ
+サイズ
+バリュー
+モメンタム
6.5%8.8%0.74
市場ベータ
+サイズ
+バリュー
+モメンタム
+収益性
5.3%5.5%0.96
市場ベータ
+サイズ
+バリュー
+モメンタム
+クオリティ
5.6%5.6%1.12

単純で雑な指標でキャプチャしたポートフォリオによるシャープレシオなので、これだけで各戦略の優位性を一概に語ることはできませんが、モメンタムのシャープレシオが群を抜いて高いことに納得する人は多いでしょう。また、モメンタムはともかくとしてバリューの標準偏差がかなり高いことには要注意です。

市場に劣後する確率(1964-2015)

1年3年5年10年20年
市場ベータ34%24%18%10%4%
サイズ41%24%30%23%14%
バリュー37%28%22%14%6%
モメンタム27%14%9%3%0%
収益性37%28%23%15%7%
クオリティ35%25%19%11%4%
市場ベータ
+サイズ
+バリュー
+モメンタム
23%10%5%1%0%
市場ベータ
+サイズ
+バリュー
+モメンタム
+収益性
17%5%2%0%0%
市場ベータ
+サイズ
+バリュー
+モメンタム
+クオリティ
13%3%1%0%0%

シャープレシオを見た時からわかってはいましたが、マルチファクター分散ポートフォリオ強いですね…。実際に組成できるなら、マルチファクター分散のレバレッジファンドが人気になってもおかしくないですね。もしかしたら既に存在してるんでしょうか?

付録:興味深い幾つかの小話

付録には、いくつかの有名なファクター候補について独立して語られています。ここでは、私が取ってきた投資スタイルに関連するものだけ少し述べるにとどめます。

配当は有効なファクターではない

配当にまつわる研究には古いものから新しいものまで数多くあり、配当政策がリターンが無関係であることは半ば当然とされてきたらしいのですが、ファクターとしての性質から見えることが、私が自身の経験からたどり着いたの結論と類似したものだったので非常に興味深かったです。

簡潔に結論をまとめると、配当利回りに着目した投資が決して悪いというわけではなく、より包括的で説明力の高いファクターが存在しているので、わざわざ独立したファクターとして採用する意味はない、ということですね。配当利回りはバリューファクター、連続増配の場合は収益性・クオリティファクターがそれに当たります。

この付録はなかなかに面白くて、昨今人気の高配当株投資戦略が意味するところを見つめ直すきっかけになると思います。これらに目を通した上での私の考えは上記の質問箱記事にも書いた通りで、資産形成するのであれば配当関連の指標に着目して投資するのは望ましくないということ。そして、普通の人が比較的低資産・低所得でリタイアするには向いている、ということです。このあたりのことは、別途記事にしようと思います。

低ベータ戦略は喰い付くされた?

付録Dでは低ボラティリティ戦略についてやや懐疑的に語られています。ファクターとしての過去の有効性は認めるものの、2008年以降に流行してディフェンシブ銘柄が買い上げられたことでバリューファクターへのエクスポージャーを失い、プレミアムが消失した可能性について述べられています。これもまた、ここ数年で何度か語られてきたことでした。

直接役に立つ本かと言われると非常に微妙なのですが、面白い本であることは間違いありません。もし、自分の投資行動がメンタルと確信の不足に左右されすぎていると感じている人にとっては、面白いだけでなく役にも立つかもしれません。

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