リタイアを意識しはじめると気になってくるのが年金の受給額。このブログでも、早期リタイアの計画を立てるため、過去何度か年金受給額を試算した結果、公的年金の受給額は現在ねんきんネット等で試算できる額より大きく減ると想定してきました。
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これまでの想定
私のリタイア計画でも、5年ごとに行われる年金財政検証結果の所得代替率に着目し、現状の60%程度から最悪で40%程度まで低下するという結果から、年金受給額も現状の3分の2程度にまで減額される、と考えてきました。
受給額自体は下がらない
しかしながら、最近年金に関するさまざまな記事を読んでいる過程で、こうした想定はあまり適切なものではないと考えるようになりました。
確かに、マクロ経済スライド等の給付改定措置によって所得代替率は低下していく見込みですが、基本的に支給額は前年を下回らないようになっています(再評価率の改定等細かい要因を除く)。
ニッセイ基礎研究所レポート:2019年度年金額改定の意味- 消費税増税前に調整の“ツケ”を解消し、健全化ペースが回復
それでは、どのように所得代替率を低下させていくかといえば、賃金や物価上昇に対する追随の度合いをおさえることで、将来の所得代替率を下げることになります。要するに、インフレに伴って賃金や物価が上昇しても、年金の額を据え置くことによって達成する、ということです。
例えば、現役世代の給与を100、年金支給額を所得代替率の60%に従って60とします。賃金が毎年1%ずつ上昇していくとすると、20年後の給与は128.2になります。しかしながら、各種改定率の補正によって年金支給額が据え置かれた場合、所得代替率は60÷128.2=46.8%にまで低下するわけです。
これはやや極端な例になりますが、現在でも一応物価上昇率は1%程度あり、保険料率の上昇は2017年でいったん打ち止め、最終的には所得代替率50%確保を目指しているわけなので、上述のざっくりした計算もそこまで外れているわけではなさそうです。
年金リスクはインフレ率の調整で対処
私の現在のリタイア計画では、生活費はすでに年率1%で増加させていますが、年金受給額は現状の水準で据え置いた上、さらに40%程度割り引いています。しかし、以上のことを踏まえると、リタイア計画上は年金受給額を直接的に減額するのではなく、インフレ率の枠の中で考えた方が現実に近いということになります。
また、 受給額自体を前年度比で減額するのは、年金だけで生活している国民からの反発が大きいことが予想され、政府には実行は難しいと思われます。
よって、財政検証で大きな方針転換が見えるまで受給額はいったん満額に戻し、年金額の不足リスクに対応する目的ではインフレ率を若干高める方向で計画を修正します。
修正したシミュレーション
以上の考えを反映し、インフレ率と公的年金受給額を次のように変更します。ついでに、受給開始年齢も70歳にしました。今から20年で受給開始年齢を10年も繰り下げるのは、政府にはほとんど不可能だと思えるからです。せいぜい5年繰り下げて70歳にしつつ、繰り下げて75歳にすることを啓蒙していく、といった程度が関の山でしょう。
条件項目 | 値 |
証券税制 | 現状と同様 |
インフレ率 | 1%/年 → 1.5%/年 |
公的年金受給開始年齢 | 75歳 → 70歳 |
公的年金受給額 | 217万円/年 → 354万円/年 |
これを見ると、354万円も年金もらえるならそれだけで暮らしていけるじゃん、という気持ちになりますが、インフレ率のことを忘れちゃいけません。46歳で引退したときは276万円だった生活費は、70歳では389万円にもなっています。しかも、年金はこの先も上がりませんが、生活費はどんどん上がっていき、100歳では608万円にも達します。ちなみに生活費には住居費は含まれていませんので、賃貸の場合はさらにお金が必要です。
ちなみに、46歳時点での276万円、70歳時点での389万円は、老後夫婦に最低限必要な生活費と言われている金額です。やはり、受給額を据え置かれると年金だけで暮らしていくのはやや厳しそうです。
私の計画では配当金があるため、かなり状況はマシになるはずですが…。
夫婦ともギリギリまで生存するケース
夫婦ともにギリギリまで生存する想定なら、常に年金が二人分支給され続けるため、かなりお金に余裕があるように見えます。ただ、介護施設に入るため等のお金はこのグラフでは考慮されていませんし、物価は二倍程度になっているので、実質的には現在の半分程度の価値しかないことになります。リスク資産が物価についていってくれていればいいんですが、その場合は換金するときに大きく課税されることにもなります。
リタイアから年金受給開始までは収支がマイナスですが、受給開始後は100歳になるまでプラスが続き、かなり安定しています。
夫が先に死ぬケース
今度はより起きそうな想定として、夫(つまり私です)が早期に死ぬケースを想定します。80歳で死ぬとしましょう。奥さんは厚生年金を受給しているため、私の遺族厚生年金と自身の厚生年金のどちらを受給するか選択することになりますが、どちらを選んでも大して変わらない金額になると思われます。つまり、私の分の年金収入がまるっとなくなることになります。代わりに、生活費は10%少なくなると想定します。
夫婦生存ケースに比べると余裕はなくなりましたが、まだ終末介護等に向けた資金は残っているように見えます。
収支は夫死亡時点でマイナスに転落していますね。とはいえ、死ぬまで逃げ切るなら大丈夫なんじゃないでしょうか…?
おまけ:インフレ率が2%の場合
夫が先立つケースで、インフレ率を2%にしてみます。
0.5%上げただけですが、現預金が尽き、リスク資産の換金が必要となっています。こうなると配当も減っていくので、加速度的に資産がなくなっていきます。インフレ率が高くなると、そのぶん年金や配当もある程度は追随することを期待はできますが、やはりインフレは恐ろしいです。
長くは持ちそうにない収支ですね。
2019年の制度見直し案に注目
前回の制度改正案はほぼすべて実現
2014年に実施された財政検証、制度改正検討では、以下の3つの改正案(オプション試算という名目)が策定・試算されました。これらはいずれも多少形を変えつつ実現済み、もしくはその方向に向かっています。

- マクロ経済スライドの仕組みの見直し
- 賃金や物価が低下した場合は適用されないマクロ経済スライドをフル適用する案
- 適用されなかった期間も後ほどまとめて適用する、という形ですでに実現
- 被用者保険の更なる適用拡大
- パート労働者等の厚生年金加入、対象事業所の拡大等
- 既に適用対象を拡大、現在さらなる拡大に向けて検討中
- 保険料拠出期間の延長と受給開始年齢の選択制
- 65歳まで拠出可能、70歳以降の受給繰り下げ等
- 現在実施に向けて検討中
2019年中頃には、新たな制度改正の方向性を決定づける試案が新しく策定される見込みです。ここで将来の受給額減少につながるような案が出るのか、要注目です。