令和の年金改悪?支給開始年齢引上げは規定路線か?

最近こんなニュースが流れてきました。内容は、年金部会の提出資料を見ると、支給開始年齢の引き上げの土台となるような資料ばかり提出されている。支給開始年齢引き上げの議論だ!引き上げの布石だ!というもの。

今年は5年に1度の年金財政検証の年。過去の経緯と同様に、今年議論された内容は数年かけて法案化され、年金制度に反映されていくことになります。ここで支給年齢引き上げの議論がされているとなると、確かに気になりますね。実際に資料と議事録を確認してみました。

結論:現段階では支給開始年齢引上げの可能性は低い

まずは手っ取り早く結論から書きます。年金部会の資料と議事録を確認した結果、次のように読み取れました。

  • 年金制度対応の方向性や、オプション試算案(事実上の制度改正原案)から判断しても、支給開始年齢の引き上げは現段階では打ち出されていない
  • 委員(15名程度)の中には支給開始年齢の引き上げを主張する人も数名いるが、少数派
  • 厚労省年金局は支給開始年齢の引き上げには非常に及び腰

今後の議論の進み方にもよりますが、次の5年で支給開始年齢の引き上げまでいく可能性は現段階では低いと思われます。それでは具体的に見ていきましょう。

年金部会の資料と議事録

年金制度の課題と年金制度対応の方向性

まず、年金制度を取り巻く課題とそれに対する対応の方向性を簡潔にまとめたのが以下の資料です。これは、2018年10月10日に厚生労働省年金局から提出されたものです。

https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000405093.pdf

見てわかるとおり、就労延伸を含む自助努力の拡充を制度面から支える方向となっており、直接的に支給年齢引き上げに言及したものはありません

制度改正案(オプション試算案)の内容

次に、事実上の制度改正案となるオプション試算の現段階での案を見ていきます。2019年3月13日に提出されたものです。

https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000487878.pdf

1つめは、これまでに微調整を続けてきたスライドの効果を確認し、必要に応じてさらに調整するもの。2つめは、これまでも報道されてきた適用事業所の拡大を含む被保険者を拡大するもの、3つめは支給開始年齢の変更や雇用延長での65歳以降の労働推進に対応して、受給開始年齢や保険料拠出期間を拡大・延長するもの。

この路線に従って進んでいくなら、5年後の次の財政検証までは支給開始年齢の引き上げがなされることはなさそうです。え、3つめ怪しくない?って人はもう少し読み進めてください。

受給開始年齢と支給開始年齢は異なるもの

注意しなくてはいけないのは、受給開始年齢と支給開始年齢は違うものだということ。簡単に言ってしまうと、支給開始年齢は支給の基準となる年齢のことで、現状は65歳。対して受給開始年齢は、実際に被保険者が年金受給する年齢のことで、年金受給の繰上げや繰下げにより60〜70歳から選択できます。

繰上げると年金月額は減り、繰下げると増えますが、いずれも年金財政全体に対する影響は中立的(得も損もしない)となるように設定されており、受給者から見てもこれは変わりません。つまり、支給開始年齢の引き上げは年金額の減少に直結するが、受給開始年齢が変わってももらえる総年金額には影響しないということです。年金財政の検証は当然、支給開始年齢:65歳を使って行います。

そして、今回引き上げ(というか拡大)が検討されているのは支給開始年齢ではなく受給開始年齢の方だということは強く認識しておく必要があります。

少し前に出てきた制度改正案の3で「受給開始可能期間の拡大」に不穏な空気を感じた方は、こうした認識とともに再度見てみると良いでしょう。受給開始可能期間の拡大とは「年金額を減らすための案」ではなく、「多様な年金と雇用の組み合わせを可能にする制度の柔軟化・改善」の一環だとわかります。

委員の議論

それでは最後に、これらの資料をもとに、支給開始年齢についてどんな風に議論がなされたかを抜粋して見ていきます。まずは、各国の年金状況を見た際の反応です。

雇用の変容と年金:2018年10月10日

○永井委員 1つ目のところで、就労期間の延伸を年金制度上に反映させるという記載がございます。その対応として考えられるのは、これまでも議論が出ておりましたけれども、支給開始年齢のさらなる引き上げということがあると思いますが、これについては、私どもの立場では実施すべきではないのではと考えております。受給者の受給権は確保される一方で、現行制度をもとに老後の生活設計を行っている現役世代への影響が大きいこと、また、公的年金に対する被保険者の信頼を損なうことにもつながりかねないという認識を持っておるところでございます。

https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000204770_00004.html

永井委員は非常に慎重だということがわかります。

○出口委員 高齢者は、認知的にも肉体的にも現役世代とは異なるという御意見が多々出ていますけれども、その現役世代というのは、昔は65歳までで考えていたのですが、医者は75歳までと言っているわけですから、むしろ75歳までが現役世代で、75以上が高齢者というのが今の医学的見地です。そういうファクトを無視して、60なり65歳という今の制度を変えるべきではないという議論は、根底が間違っている気がしてならないのです。

https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000204770_00004.html

反面、出口委員はかなり急進的で、支給年齢の引き上げを強く意識しているように見えますね。

○権丈委員 だから、ここで高齢者というと、恐らく多くの人が65歳をイメージしていると思うのですけれども、老年学会・老年医学会の人たちから見ると彼らが言う高齢者である75歳以上にはいろいろ分散がある。75歳以上の人たちみんなが働くと言うのは無理だよねとかいうようなことはあるけれども、今やもう昔の65歳が75歳ぐらいまで来ているのだから、昔65歳で実現できたのだったら、75歳ぐらいまでできるだろうというのが彼らの主張で、75歳以降を高齢者と呼んで、65歳から74歳を準高齢者と呼ぼうというようにして、だから、この年金部会の場で「高齢者は」という言葉を使うときに、みんなが同じ共通認識を持ってもらいたいのです。

https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000204770_00004.html

権丈委員も、高齢者の定義そのものを5〜10年スライドさせることで、年金も当然10年スライドすべき、と言いたいように見えます。

雇用の変容と年金:2018年11月2日

別の資料からも。

○出口委員 支給開始年齢についても、アメリカやドイツ、イギリス等で引き上げているというファクトを見れば、日本はさらに高齢社会なのだから、この4ページの表を見て、日本が一番長寿国であるというファクトを見れば、これからの政策の基本は、定年の廃止であり、支給開始年齢は例えば70歳ぐらいにすることが、誰が考えても自然ですよね。そのように私は4ページの表を読んだのです。

同じように、ごく自然に考えたら、11ページにシンプルな表がありますが、これも少なくとも5歳ずつ右に持ってくるというのが、諸外国や日本の平均寿命を考えたらごく普通の発想だと思うのですよね。だから、そういうファクトに基づいた大きい方向性にみたいなものをきちんと示すべきだと、私は思います。

https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000204770_00007.html

やはり、出口委員はかなりの支給開始年齢引き上げ推進派のようです。

○菊池委員
基本的には雇用の問題であって、65歳以上、高齢者の雇用保障が進んでいかないと、繰下げ時期の柔軟化をしても、結局、絵に描いた餅に終わってしまう可能性が高いということかと思います。それに関連して、先ほど出口委員が少しおっしゃっておられましたが、支給開始年齢の引き上げをはなから議論の俎上から除外してしまうのではなくて、せっかく財政検証の時期でもありますので、将来的なこともありますので、支給開始年齢の引き上げというものも、議論しておく必要があるのではないかということが私の考え方でございます。
以上です。

https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000204770_00007.html

菊池委員はもう少し中立寄りですが、財政検証としては選択肢から排除するのはよろしくない、という立場。これは、冒頭で見たように年金局から提示される資料が支給開始年齢の引き上げを試案から排除していることに対する反発といっても良いでしょう。私にはこれは至極常識的な意見に思えます。

これに対して、資料を作成した厚労省側の意見です。

○年金課長 年金課長でございます。
時間の関係で、そのあたりの私の説明が少し足りなかったと反省しております。
御指摘のとおりで、年金財政の観点からは、数理課長が御報告と御説明を申し上げたとおりでありますので、政府としてはそういう観点から支給開始年齢の引き上げは考えていないということを、総理以下、繰り返し外に向かってお話し申し上げております
その上で、きょうも整理させていただいたのですが、ただ、世の中は受給可能期間を少し緩めようという話と支給開始年齢の引き上げとを混同しがちな傾向がありますので、安易に支給開始年齢の引き上げを議論しましょうと言ってしまいますと、年金財政のために70歳までもらえなくするつもりだということをおっしゃるような専門家と称するような方々もいらっしゃる関係もございまして、できれば年金部会の中でも、仮にきょう菊池委員とか出口委員がおっしゃったような意味での支給開始年齢の議論を排斥せずに、仮にやるといたしましても、それは別にきょうの4の図にあるような観点も含めてのものであって、年金財政論的なことではないということを常に御確認いただきながらやっていただいたほうが、そういった無用の誤解と無用の批判を受けなくて済むのかなと思っております。

https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000204770_00007.html

なんというか、めちゃくちゃ及び腰です。厚労省としてはマジでやりたくないというのがひしひしと伝わってきます。まぁ、今こんな話出したら衆院選が危ういですからね。忖度ですかね?

○権丈委員 最後、私も言っておかなければいけないと思って。
支給開始年齢の議論をやったほうがいいのではないかという話が本日出てきて、このまま終わってしまうと、やっぱりやるんだとかというような話に記事とかがなってしまう可能性がありますので。

https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000204770_00007.html

先程、高齢者の定義自体は10年スライドすべき、と述べていた権丈委員ですらこの有様。トータル15名〜のうち、支給開始年齢引き上げに積極的な発言を見せているのはわずか2〜3名であることも考えると、次の5年で支給開始年齢まで引き上げるのはかなり難しいのではないかと思わざるを得ません。

結論:現段階では支給開始年齢引上げの可能性は低い

というわけで、冒頭に述べた結論を再掲します。

  • 年金制度対応の方向性や、オプション試算案(事実上の制度改正原案)から判断しても、年金支給開始年齢の引き上げは現段階では打ち出されていない
  • 委員(15名程度)の中には支給開始年齢の引き上げを主張する人も数名いるが、少数派
  • 厚労省年金局は支給開始年齢の引き上げには非常に及び腰

冒頭の記事だと各国年金状況を確認する資料から「支給開始年齢引上げだ!」と主張していましたが、厚労省側はまさにそうして騒がれることを極度に恐れ、支給開始年齢については触れたくもない、といった雰囲気です。個人的にはむしろ忖度しすぎに思え、菊池委員の言うように試算から排除せずに検討はすべきでは?と思ってしまうレベルです。

ただ、これからの検討の結果どうなるかはまだわかりません。引き続き状況を注視していきたいと思います。

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