投資本の雑な感想:老人喰い/奪取

高齢者や壮年富裕層の財産が特殊詐欺で集中的に狙われている…彼らは高度に洗練されており、完璧に防ぐことは難しい…というウェブ記事を読み、高齢の親への被害を含め、早期リタイア者の脅威となるかも、と感じて同じ著者の本を借りて読んでみました。

なお、老人喰いと奪取は、同一著者がほぼ同じ内容を少し別の視点から書いたものなので、得られる知識はほぼ同じ。両方読む必要はないと感じました。

結論&まとめ

  • 振り込め詐欺は高度化を続けており、高齢者が振り込み詐欺を完璧に防ぐことは難しい
  • 振り込め詐欺組織の根絶を期待するのは難しい
    • 上層部が完璧に守られる組織構造であり、実行犯を摘発しても何度も再生してしまう
    • 困窮した若者が増え、正業の期待値が下がるとともに詐欺の相対的なうまみが増え、人材の流入が続いている
  • 被害のリスクを下げるには、セキュリティ対策を何重にも講じて確率を下げるしかない

書籍の概要

  • 振り込め詐欺組織の上層部は下層部と切り離されており、下部を摘発しても何度でも再生してしまうため根絶は難しい
  • 振り込め詐欺組織の裾野は広がりを見せており、奨学金返済と薄給で追い詰められた大学卒も参入している
  • 振り込め詐欺組織のプレイヤーは高齢者の財産を奪うことを罪と考えていない
  • 振り込め詐欺組織のプレイヤーはモチベーションが高く、正業についていれば社会に大きく貢献したと思われる

高度に洗練された詐欺組織

振り込め詐欺の組織は高度に組織化され、役割ごとに分業が進み、かつ相互に金や人の流れが追えないようになっています。

登場するそれぞれの役割について、詐欺被害者に近い立場から順に紹介します。

詐欺の実行犯

詐欺の実行犯として、詐欺被害者に最も近いのが電話をかけて詐欺を働くプレイヤー、そしてプレイヤーを詐欺店舗単位で取りまとめる店長です。彼らは元々多重債務者や就業に失敗した大卒者、不良出身者ですが、番頭によって集められ、研修屋によって研修を受け、選抜をくぐり抜けた選ばれし者です。

詐欺電話に成功した際、実際に資金を回収するのが出し子、受け子と呼ばれる役です。この役は直接被害者やATMに接触するため、非常に摘発されやすく、使い捨てとなることが多いです。選抜を通過できなかった多重債務者や、小遣いが欲しい学生等が担当します。

実行犯のサポーター

多重債務者等を選抜・研修するのが研修屋と呼ばれる役です。人を騙すためのシナリオも考案、提供します。道具屋は、他人名義の振り込み用銀行口座や、詐欺用携帯電話を調達・販売する役です。

そして名簿屋は、架電先の名簿を販売する役です。単なる売り切りではなく、詐欺成功金額のうち一定の割合を受け取る場合も多く、また高度な名簿はシナリオと表裏となっており、中心的役割を果たす役どころとも言えます。

これらサポーターは金主が囲っていることが多いようで、番頭の独立や離反を妨げる要因の1つとなっています。

上部組織

番頭は、詐欺ビジネス全体の取りまとめ役として機能する役どころです。金主から各種資本の提供を受けた番頭は、それを元手に架空名義の店舗を借り、プレイヤー候補を集め、研修屋を使って教育し、店長を抜擢し、詐欺電話を仕掛け、出し子・受け子グループを使って資金を回収・保管し、金主に上納します。

なお、受け子・出し子から番頭まで資金が渡るまでには、5つ以上のステップ(相互に面識のない人物や匿名の私書箱等を使った受け渡し)を挟むようになっており、ここから人を追うことはほぼ不可能になっています。また、現場と金主を完全に切り離すポイントとしても機能します。

そして頂点に君臨するのが、詐欺等のスキームを考案し、資金と設備を提供し、投資成果の上納を受ける金主です。金主は資金だけでなく、詐欺に必要な人材を囲っており、詐欺組織の中核となっています。

一歩離れてうまい汁を吸う暴力団

最後に、任侠の立場上直接詐欺に加担できない暴力団は、金主の一角を占めたり、金主の後ろ盾や調停役になったり、詐欺プレイヤーを派遣して上前をはねたりして絡んでいるようです。

先程の図を再掲します。かなり複雑ですね。

特殊詐欺は根絶されるか?

結論から言うと、近い将来に特殊詐欺組織の根絶を期待するのは難しいようです。

金主が摘発されず、組織の再生が容易

組織の構造上、現場のプレイヤーはそもそも金主の顔も連絡先も知りません。知っているのは番頭のみですが、番頭が金主について話してしまうと、以後裏の世界で生きていくことはできなくなるため、話すことはありません

反面、きちんと情報を秘匿した場合、出所後も手厚い保護や資金的手当が受けられたり、少なくとも報復を恐れる必要はないため、詐欺で稼いだお金を元手にし、表裏含む他の事業で容易に再起することができます。このため、金主の情報を漏らす番頭は存在しない状況です。

プレイヤー候補に事欠かない

現在の振り込め詐欺は、当日手渡し~振り込みできる程度に資産を持っている者から奪います。このため、社会保障にも救われず、日々困窮する若者は経済的強者の高齢者に対して不公平感を燻ぶらせており、研修屋や番頭の洗脳によって容易に資産家を恨む詐欺プレイヤーに変貌します

実際、彼らは自分たちの行為を大して酷いこととは考えておらず、世の不条理を正す仕事の一種とみなしているようです。また、正業の給与が伸び悩んだ結果、まっとうに大学を卒業して就職した際の金銭的な期待値はどんどん低下しており、相対的に詐欺の魅力が増しています。

こうして、詐欺に手を染める若者は後をたたないという状況が続いています。

自衛の方法は…?

特殊詐欺の根絶が期待できないのであれば、なんとか自衛するしかありません。しかし、詐欺の自衛は簡単なことではありません。

詐欺の自衛の難しさ

特殊詐欺の肝は名簿の質とシナリオです。最近の名簿は、押し売り販売の名簿のような単なる情弱の名簿ではなく、介護施設の問い合わせや介護機器の購入名簿等と組み合わせて認知に問題がある等の詐欺に弱い者を絞り込んだ高度なものになっています。また、事前に自治体調査等を装って家族や生活状況についての情報収集まで行っており、これによってシナリオは異常な現実味を帯びることになります。

さらに、詐欺かもしれないと疑えたとしても、家族の名前、年齢、勤務先、役職まですべて詐欺組織に知られていると理解してしまうと、詐欺とわかっても報復を恐れて何度も払ってしまうことが増えています。

このように、詐欺は情報収集を強化して高度化しており、単独で自衛することがどんどん難しくなっています。

それでもできることがあるとしたら…?

この本には、その性質上自衛の方法は書かれていません。そもそも詐欺の進化が早すぎて、細かな手法を覚えてもあまり役に立たない、ということもあります。一般的なセキュリティ同様、次のような対策を少しずつ重ねて総合的に自衛を図るしかないのかもしれません。

  • 情弱名簿に載らないようにすること
  • 資産の存在を知られないようにすること
  • 金銭の移動にあたっては声だけでなく実際に本人の確認を取ること
  • 典型的な詐欺の手口とおかしな点をある程度は知っておくこと
  • 不審に感じた場合はこちらから改めて連絡を取り直すこと
  • 詐欺で物理的に報復されることはまずないので、迷わず警察に連絡すること
  • 判断能力に疑問のある高齢者の資金は、信託や後見人等により防衛すること

若者が詐欺業に向かわないためには

詐欺の上位プレイヤーは、一部の正業でもかなりの結果を出せるであろう能力の高い者が多いそうです。また、奨学金返済のために詐欺に手を出す大卒者も増えているようです。

そうした若者を詐欺に向かわせることなく正業に就くようにできれば、特殊詐欺を減らし、日本の将来を明るくできるかもしれません。そのために必要なことは…

  1. 詐欺プレイヤーの摘発率を上げること
  2. 正業の見返りを増やすこと
  3. 世代間格差を是正すること

このあたりでしょうか。さらに、賃金カーブのフラット化を後押しし、若者に適正な給与を与える必要もあるでしょう。そのためには解雇規制の緩和が必要なのでしょうが…。これは日本労働市場の根源的な病なのでしょうね。

小金持ちは格差にもう少し目を向けるべき?

詐欺プレイヤーの摘発は警察にまかせるしかないかもしれませんが、教育無償化、社会保障負担の見直しは積極的に進めるべきなのかもしれません。小金持ちがより高い税負担を引き受けることは、回り回って彼ら自身のためになるのかもしれない…この本を読んでそんな感想を持ちました。

まぁ正直、小金持ちはそこまで余裕がないので、自衛にお金をかけられる大富豪サンがもっと税金出してよーというのが本音ですが。

おまけ:詐欺プレイヤーの人数は?

警察の統計によると、特殊詐欺の被害額は370億円だそうです。プレイヤーの取り分は詐取金額の10%程度だそうなので、37億円です。プレイヤーの年収は高い人で3,000万に達するそうですが、平均すると1,000万としましょう。

そうすると、アクティブな詐欺プレイヤーはおよそ370人しかいないことになります。出し子、受け子の詐欺による年収を3分の1とすると、およそ1,200人。店長は50人、番頭は10人程度しかいません。作中では途方もなく大きな組織のように描かれていますが、意外と少ないですね。

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