投資本の雑な感想:株式投資で普通でない利益を得る
※ 前ブログからのサルベージです
ジャンル的には成長株投資で、原題はCommon Stocks and Uncommon Profits。初版は1958年ですが、訳本の元となったのは第二版(おそらく1959-60年に出版)で、いくらか改訂されています。パブライがガイ・スピアに対して「グレアムはマスターしているが、フィッシャーはそうでもないのが問題だ」と言っているのを耳にし、これは読んでおかねば、と思い入手しました。
目次です。かなり長く見えますが、息子であるケン・フィッシャーのエッセイ部分がかなり長く、本編は200ページにも満たない薄い本です。
監修者まえがき
まえがき――父の本から学んだこと ケネス・L・フィッシャー
父について ケネス・L・フィッシャー
まえがき
第1章 過去から学べること
第2章 「周辺情報利用法」から分かること
第3章 何を買うべきか――株について調べるべき一五のポイント
- その会社の製品やサービスには十分な市場があり、売り上げの大きな伸びが数年以上にわたって期待できるか
- その会社の経営陣は現在魅力のある製品ラインの成長性が衰えても、引き続き製品開発や製造過程改善を行って、可能なかぎり売り上げを増やしていく決意を持っているか
- その会社は規模と比較して効率的な研究開発を行っているか
- その会社には平均以上の販売体制があるか
- その会社は高い利益率を得ているか
- その会社は利益率を維持し、向上させるために何をしているか
- その会社の労使関係は良好か
- その会社は幹部との良い関係を築いているか
- その会社は経営を担う人材を育てているか
- その会社はコスト分析と会計管理をきちんと行っているか
- その会社には同業他社よりも優れている可能性を示唆する業界特有の要素があるか
- その会社は長期的な利益を見据えているか
- 近い将来、その会社が成長するために株式発行による資金調達をした場合、株主の利益が希薄化されないか
- その会社の経営陣は好調なときは投資家に会社の状況を饒舌に語るのに、問題が起こったり期待が外れたりすると無口になっていないか
- その会社の経営陣は本当に誠実か
第4章 どんな銘柄を買うべきか――自分のニーズに合う株を買う
第5章 いつ買うべきか
第6章 いつ売るべきか――そして、いつ売ってはならないか
第7章 配当金をめぐるさまざまな言い分
第8章 投資家が避けるべき五つのポイント
- 創業間もない会社は買わない
- 「店頭株」だからという理由だけで良い株を無視しない
- 年次報告書の「雰囲気」が良いというだけで株を買わない
- 高PERは必ずしも今後、収益がさらに増えることを示しているわけではない
- 買値のわずかな差に固執しない
第9章 ほかにも避けるべき五つのポイント
- 分散しすぎない
- 戦争の時期には株を恐れずに買う
- ギルバートとサリバンの歌詞を忘れずに
- 本物の成長株を買うときはタイミングと株価も必ず考慮する
- みんなのまねをしない
第10章 成長株を探す方法
第11章 まとめと結論
バフェットを思わせる投資スタイル
バフェットが「フィッシャーの新しい本ならいつでも読んでみたい」と話していたとか、初期のグレアム流から優良企業を適正な株価で買って長く持つスタイルへ変化したのはフィッシャーの影響だとか色々と言われていますが、読んでみると確かに中期以降のバフェットの投資スタイルにかなり近いと感じました。
過度な分散を諌める姿勢、配当や資本政策に関するスタンス、経営陣の重視、望ましい保有期間等、バフェットの投資スタイル変更に重要な影響を及ぼしたと言われても納得できるほどの類似点があります。
ブランドやモート(堀)を重視したバフェットとは異なり、時代柄かもしれませんが、製造業や重工業の研究開発力を重視しているようにも見えます。しかし、フィッシャーが現代に生きていれば、おそらく非製造業でも似たアプローチで成功を納めていたでしょう。
フィッシャーの成長株の探し方は第10章で簡潔に、次のようにまとめられています。
- 業界関係者や知り合いの投資家からの情報をもとに、候補企業を探す
- SEC書類にざっと目を通し、事業や財務を把握する
- 競合他社、顧客、取引先、社員・元社員、関連分野の科学者等に話をきき、3章にかかれた15のポイントを評価する
- 必要な知識の過半が集まったら経営陣に会い、情報を補強しつつ最終的な評価を下す
肝はやはりステップ3で、多様な伝手に聞き込みをして対象企業を評価する部分です。これは本書で周辺情報利用法と呼ばれています。バフェットの投資法を読んだ時に感じた人も多いと思いますが、これを資金力と時間に乏しい個人投資家が実践するのは非常に難しいですね…。
パブライやスピアであれば十分実践できるのでしょう。そういう意味ではやはり、簿価をベースとしたバリュー投資の方がとっつきやすいように思います。ただし、フィッシャーの投資は300〜1000%のリターンを狙えますが、バリューのみでは30〜100%程度と思われ、リターンでは劣後しがちです。
フィッシャーの晩年
本書の冒頭では息子のケン・フィッシャーが父について語っているのですが、それによると父親であるフィリップ・A・フィッシャーは晩年まで投資を続けたものの、70歳以降の投資は明らかに精彩を欠き、誤った判断で損失を大きくしていたようです。こうした経験から彼は「現時点では、高齢がすべての偉大な投資家を足止めしている。端的に言って、80歳代の偉大な投資家は存在しないのだ」と記しています。
フィッシャーの投資には高度な情報処理能力と判断力、行動力とコミュニケーション能力が必要であり、判断が曇れば成長株特有の下値の大きさに足を取られることになります。フィッシャーの晩年の様子は、こうした投資手法の性質によるものも大きかったのではないかと個人的には感じます。
バフェットやマンガーは80歳を超えた今も偉大な投資家とみなされていますが、生涯一人で投資を続けたフィッシャーと異なり、彼らは投資を継続する組織を作ったことで足止めの時期を遅らせることができたのかもしれません。とはいえ、バフェットマンガーですら徐々に一線を退きつつあるように見え、また近年の投資判断もやや精彩を欠くと見る向きもあります。
成長株投資の難しさ
私もできれば成長株に投資してみたいものですが…フィッシャーのレベルで事業を理解し、高い確信を持って銘柄を選別できる気が全くしません。。ここまで情報を集めての投資は無理ですが、まずは1銘柄、少額から成長を狙っての投資を始めてみたいところです。難しいようなら、バリューの基準を満たすもののうち成長株要素を持つものに大きなウェイトを置くところから始めようと思います。
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