投資本の雑な感想:千年投資の公理


以前から良い評判をきいていたのですが、この度ついに隣接区の図書館から入手しました。原題は"The Little Book That Builds Wealth"。邦題はちょっと大げさな感じですね。目次は次です。

序文――行動計画
第1章 経済的な堀――経済的な堀の定義とそれを使って優れた株を選ぶための方法
第2章 誤解されている堀――幻の優位性にだまされるな
第3章 無形資産――棚から取り出せるものではないが、間違いなく価値がある
第4章 乗り換えコスト――しつこい顧客は面倒ではなく黄金だと思え
第5章 ネットーワーク効果――非常に強力で、1章を割く価値がある
第6章 コストの優位性――賢くなるか、近くなるか、ユニークになれ
第7章 規模の優位性――きちんと把握していれば、大きいことは良いことだ
第8章 侵食される堀――優位性を失って立ち上がれない
第9章 堀を探す――外はジャングルだ
第10章 ビッグボス――経営陣の影響は思ったほど大きくない
第11章 肝心なこと――比較分析の五つの例
第12章 堀の価値はどのくらいか――最高の企業でも高く買いすぎればポートフォリオを傷つける
第13章 評価のためのツール――割安の株を探す
第14章 いつ売るか――賢い売りが高リターンにつながる
結論――投資は数字だけではない

この本は、その紙幅の大半を1の企業が持つ特徴…"堀"について割いています。堀・モートはバフェットの中後期投資の核であり、長期投資の王道と言えます。ここ最近のハイテクの強さとも重なるものがありますね。本書が推奨する投資のスタイルは、次のようにまとめられています。
  1. 長期間にわたって平均以上の利益を上げることができる企業を探す
  2. その企業の株価が本質的勝ちより安くなるまで待ってから買う
  3. 企業価値が低下するか、株価が割高になるか、さらに優れた投資先が見つかるまで、その銘柄を保有する。保有期間は、月単位というよりも年単位で考える
  4. この手順を必要に応じて繰り返す

堀の重要性とその種類

堀が重要なのは、堀がもたらす高いROCを長期にわたって維持する企業は、単純にDCF評価で企業価値が高くなるからです。その分株価が高ければ投資としては意味がないため、妥当な企業価値を算出する方法も身に付ける必要がありますが。

堀は次の4種類とされています。
  • 無形資産
    • 人気ブランド:高い金額を支払う、定期的に購入する、といった顧客の行動に影響を与えられるのであれば価値がある
    • 特許:様々な特許製品に関して改良を重ね、実績が継続する場合に価値がある
    • 行政の認可:価格設定に規制がない場合に最大限の効力を発揮、NIMBYのような小規模認可の集合体は強力
  • 乗り換えコスト
    • 顧客の事業への浸透、金銭、再訓練、事故リスク等さまざまな形態がある
    • 例:銀行、会計ソフト、エンジン、データベース、オーサリングソフトウェア…
    • 小売やレストラン等の企業は乗り換えコストが低い場合が多い
  • ネットワーク効果
    • 情報共有やユーザー同士の連携に多くみられ、物を扱う分野には少ない
    • ネットワークの価値は、接続数が極端に大きくなるとあまり増えなくなるケースもある
    • 例:AMEX、Microsoft、イーベイ、CME、物流仲介業等
  • コストの優位性
    • 上記3つと比べ、製品に高い価格をつける助けにはならない
    • ライバル企業が真似できるかどうかが非常に重要
    • コストの優位性が大きな要素となる業界は、代用品が簡単に見つかるかで判断できる
    • 次の4つから成る
      • 安い製造過程:さほど長続きしない、DELLや格安航空等
      • 有利な場所:真似しづらく耐久性が高い、ゴミ運搬業者や砂利メーカー
      • 独自の資産:採掘コストの低い鉱床や栽培に向いた土地等
      • 規模の大きさ
  • 規模の優位性
    • 固定費の高い事業、ニッチ市場のリーダー、巨大な物流ネットワーク等
    • 小企業でもライバルより十分大きかったり、市場が小さければ発生する
反面、堀と誤解されている代表的な要素には次のようなものがあります。
  • 素晴らしい製品
    • クライスラーミニバン、クリスピー・クリーム・ドーナツ
  • 大きなマーケットシェア
    • コダック、IBM、GE
  • ムダのない業務執行
  • 優れた経営陣

堀はどの程度長続きするのか

堀といえども永遠に持続するわけではありません。次のような要因で堀は埋まってゆくため、どの程度の期間持続しそうか、ある程度評価する必要があります…が、ぱっと見ただけでも難しいですね。
  • 技術革新
    • テクノロジーを売る企業が先端技術を維持できずに厳しい競争に負ける
    • フィルムメーカーのように、事業そのものが消し飛ばされる
  • 業界構造の変化
    • 価格交渉力の高い大規模小売店の隆盛により消費財メーカーの収益力が恒久的に悪化
    • 新興国のグローバル経済参入による低コスト化の進展で先進国製造業が打撃
  • 悪い成長
    • 堀のない分野への多角化によるROCの下落
    • 資本配分失敗の一例とも考えられる
    • 一時期のMicrosoftが例として挙げられている
    • Googleは若干怪しい気がする
  • 堀の限界
    • 定期的に価格を引き上げてきた企業に顧客から苦情が出るようになる
    • これは企業の競争上の優位性が弱まっている顕著な兆候
    • Oracleが例として挙げられている
    • AppleのiPhone/iPadも当てはまっているように思う

堀の出来やすい業界、出来づらい業界

例外はもちろんありますが、業界によって堀の構築しやすさは大きく異なっています。
  • 堀が出来やすい業界
    • メディア:インターネットによる業界変動を生き残る企業にチャンスあり
    • 公共:監督機関と友好的な地域・企業にチャンスあり
    • 金融サービス
    • エネルギー:天然ガスやパイプラインには場所による堀が生まれやすい
    • テレコミュニケーション:規制の少ない外国企業に堀が多い
    • ソフトウェア
  • 堀が出来づらい業界
    • ハードウェア:差別化が難しい傾向
    • 消費者サービス:厳しい
    • 消費財:ブランドが多いが消えるものも多い
    • ヘルスケアサービス:サービスには堀が少ないが、製薬には堀がある
    • 素材:景気循環でまとめて売り込まれやすく、堀のあるニッチ企業を拾うチャンスが多い
一般的に、法人向けサービスの方が堀を築きやすいようです。これは実感としても当てはまります。

堀を探すステップ

これまでの内容をまとめると、堀を探すステップは次のようになります。
  1. 過去に堅調なROCを示しているか確認する
    • ROCが低い場合、将来が過去と異なり、競争上の優位性を持つに至るかを考慮
  2. 競争上の優位性のうち1つ以上を持つか確認する
  3. 競争上の優位性の強さと、どの程度持続しそうかを確認する
    • 長期なら広い堀とみなす
    • 短気なら狭い堀とみなす
長期ってどれくらいなんでしょうね…。

堀の価値

堀の価値を正確に計るのは難しいですが、投資に正確な評価が必ずしも必要なわけではありません。マーケットが織り込んだ状況…成長率やROC、がどの程度の確率で達成できそうか判断できれば、十分役に立ちます。その際、次のことを常に考慮します。
  • リスク:将来の予想キャッシュフローが実現する可能性
  • 成長:キャッシュフローがどこまで大きくなるか
  • ROC:事業を継続していくためにどれだけの投資が必要化
  • 経済的な堀:いつまで超過利益を生み出すことができるか

評価のためのツール

代表的なツールは次のようなものです。おそらく皆知っている指標ですね。
  • PSR
    • どんな企業にも売上はあるため、業績変動が激しい企業にも使いやすい
    • 異なる業種で比較すると利幅の小さい企業はすべて割安に、利幅の大きい企業は割高に見えるので注意
    • 一時的に利幅が縮小している企業、利幅を拡大する余地が十分ある企業に向く
    • 利幅が小さい企業同士を比較して、コストを削減すれば利益率が大幅に上昇する余地がありそうな企業を探す等
  • PBR
    • 業種によって簿価が表すものは大きく異なる
    • 競争上の優位性はたいてい簿価には含まれない
    • 金融サービスセクターに対しては簿価の流動性が高く正確な評価がしやすいため、特に有用
    • PBRが異常に低い金融会社は資産に問題を抱えている可能性があるので要注意
  • PER
    • 使いやすいが会計上のノイズも多い
    • どのEarningsを使うのかも注意が必要、業績変動や将来予測を加味しながら平均的な年の収益を独自に予想するのが良い
    • かわりにPCFRを使うのも有効だが、資本集約型の事業の場合は償却目前に過大になりやすいので要注意
  • 利回り
    • 他の資産クラスと比較できるのは便利
    • FCF÷買収価値 で計算されるキャッシュリターンを使うのも良い
私は投資スタイル上ほとんどPSRを使ってこなかったので、少しずつ使うような場面を増やしていきたいですね。利用にあたっては次のことを忘れないようにします。
  1. 評価の基となる4つの要素を忘れてはならない
  2. 複数のツールを使う
  3. 忍耐強く待つ:投資の世界でストライクを宣告されることはない
  4. タフであれ:ニュースに流されすぎるな
  5. 自分で考える

いつ売るか

以下のいずれかがイエスになった時に売ります。いずれにせよ、自分の買値にアンカリングされすぎないこと。
  • 自分は間違っているか
  • その企業のファンダメンタルズは悪化しているか
  • ほかにもっと良い投資先はあるか
  • このポジションがポートフォリオのなかで大きくなりすぎていないか

書籍の概要メモのような形になってしまいました。自分が良く理解できる業種や企業に対して地道にこうした取り組みを続けるのが長期投資の王道なのだと思います。邦訳のサブタイトルが「売られ過ぎの優良企業を買う」となっていますが、これはあくまで本書が推奨している投資方法の1つの例に過ぎないので、有力とは思いますがこだわりすぎない方が良さそうです。

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