認知資源はなぜ重要なのか?:欠乏の行動経済学
少し前、認知資源関連の話題が私のTLでプチ流行しました。スマホの通知を切るとか、着る服をあらかじめ決めておくとか、不要なものを捨てて整理整頓することで、認知資源…意思の力を無駄遣いしないようにする、といった話ですね。
私も社会人になった頃から少しずつ取り組んできたことで、前のブログではお金を貯めるための手段としても紹介していました。金銭管理の自動化にはじまり、家事の自動化やToDoサービスを使ったタスク管理の外部化などです。これは蓄財にとても有効と感じてはいましたが、一体なぜ重要で、どのように効果を発揮するのかうまく説明できないままでいました。
今回図書館から届いた『いつも「時間がない」あなたに 欠乏の行動経済学』、読むまでは時間の有り余っている今の私には不要な本かとも思っていましたが、読んでみると認知資源に対する疑問への答えが詰まっていました。
欠乏の行動経済学
リソースの欠乏:底なし沼の入口
- お金・時間・人間関係といったリソースが「欠乏」すると、人は目先のリソース調達に意識を集中し、それ以外のことは目に入らなくなります(「トンネリング効果」)。これにより、短期的には平時より良い成果を上げることが多いです(「集中ボーナス」)。
- 視野狭窄に陥ると、目先の解決手段(サラ金で借金する、家族行事を後回しにする等)がもたらす悪影響も目に入らなくなり、後に負債となって将来のリソースを減らしてしまいます(「トンネリング税」)。ボーナスより税が大きい場合、時が経つにつれてどんどん状況が悪化していきます。
処理能力の枯渇:底なし沼へのひと押し
- トンネリングによる視野狭窄が起きるのは、人が持つ情報処理能力・認知資源(「処理能力」)は有限で、使えば減ってしまうためで、目先の問題に集中しすぎるとそこで認知資源を使い切り、他の情報処理ができなくなってしまうから、と考えられています。
ジャグリング:欠乏と視野狭窄の最終段階
- 状況が悪化すると、目先の出来事を常にギリギリで処理し続ける状況(「ジャグリング」)に陥り、長期的な視野がほぼゼロになってしまいます。
- 様々なリソースの中で、特にお金の不足は欠乏状態を自分の力で解消することが難しく、悪影響も大きくなります。
巨大な負債に押し潰されないために
- 時間・金銭等のリソースの余裕(「スラック」)を常に確保しておく
- 生活防衛資金を用意する
- 保険に加入する
- 仕事の流量をコントロールし、常に余裕を保つ
- 処理能力の浪費を避け、枯渇しないようにする
- 扱う物を減らす
- 受け取る・処理する情報を減らす
- 日々の選択肢を減らし、雑事を自動化する
- 記憶を外部化する
- 視野狭窄状態になった際、外部から正しい優先順位を知らせる
- 通知してくれる情報システムを構築する
- 困った時に頼れる、助言をくれる人間関係を構築する
投資、資産運用、蓄財関連で軽視されがちな行動がものの見事に詰まっているのが面白いですね。恵まれた前提を置いた論理的思考、金銭的リソースのみに着目した最適化思考では不要、もしくは取るに足らないと考えられるものが多いように思います。実際、優秀で恵まれた人たちは意識せず、呼吸をするように行えているため、わざわざ気にするようなことではないのでしょう。
しかし、これが自然にできない人は思った以上に数多く存在するようです。そして、うまくできなければ呼吸と同様(社会的な)死に至りかねない重大な事項であり、蓄財や投資以上に重要とも言えるものです。自分がジャグリングしている懸念がある場合は、まずはこれらの対処を優先し、人生の基盤を整える必要があります。
参考までに:私の取り組み
先程書いた通り、私も大学生〜社会人になった頃は酷いものでした。今でもその頃のことは悪夢として夢に出てきます。ざっとこんな感じでした。
- 家賃を滞納、大家と返済計画を交渉
- 不払いで定期的にガスや電話が止まる
- 卒業が危ぶまれるレベルで単位が不足
- 面接に遅刻
- 内定企業の社員面談を連絡無しで欠席
- 就職時に上京するためのお金が不足、一部の荷物を手運び
- 上京した時点で現金が1万円以下
- クレジットカードの引き落とし口座への送金をミスして事故、催告を無視して契約解除
- 信用情報に傷がついてクレカ作成不能に
- すべての時間を技術スキルの向上に充て、人間関係と金銭管理を軽視、家族旅行をドタキャン
- 歩きながら、トイレで、飯を食いながら常に読書
- 部屋は本の森、数百冊を積み上げ
- すさまじい数の技術フィードを購読
- 漏水したエアコンは放置して部屋の中に水が滴り落ちている
- 勤怠等細々とした社内事務処理が尽く期限超過
まぁ…ひどいです。私ならこんな人間と関わりたくありません。企業側もなぜ採ったんでしょうね…。さすがにまずいと思い、少しずつ取り組んできたのは次のようなことです。各カテゴリごとにおおまかに時系列に並んでいます。
タスク管理等
- スケジュールとタスクを毎日、毎週手帳に書き出し、行動計画を決めて実行
- スケジュールとタスク管理をGoogleカレンダーとTodoサービスに移行
- 繰り返し発生するタスクをすべてTodoサービスに登録、自動で通知されるように
- 遠い将来を含め、すべきこと・したいことの全てが常にTodoサービスに登録されている状態を維持
- 今日/明日のスケジュールとタスクを適切なタイミングで自動的に音声で教えてくれるように自動化
家具・器具等
- 一定期間使っていない家具・器具類をすべて売却
- 汎用品で代替できる便利・特殊器具をすべて売却
- エリアごとに機能と置き場が明確になるよう家具を再配置
- 収納不足に対応するため壁面収納を追加
- 家族の動線と行動を分析し、器具を効率の良い場所に適宜再配置
- スマートロックを導入し、鍵を排除
- スマートリモコンと関連ソフトウェアで家をスマートホーム化
- 居住パターンを分析して家の状態と遷移条件を洗い出し、自動的に家の状態が切り替わるように設定
家事・日常行動等
- ロボット掃除機、洗濯乾燥機・食洗機を導入し、家事を省力化
- 家具をすべてロボット掃除機が潜れる足の高いものに変更
- 床掃除の頻度を低下(2〜3週に1度)
- コンビニとスーパーの安価で日持ちする食材で作れる簡易な料理を習得
- 在宅に伴い1日1〜1.5食に変更、食事にかかる労力を低減
家計・資産管理
- 銀行口座を1つに集約し、口座の残高推移で資産状況がわかるように変更
- 固定費の支払いをすべて自動引き落とし・クレカ払い・自動振込化して自動化
- 変動費の支払いをすべてクレカに移行
- 生活防衛資金を確保
- 投資を開始
- 銀行、証券、クレカを必要最小限のものを除き解約
- 資産・家計管理サービスで資産推移と家計の半自動的な管理を開始
- ライフプラン/ファイナンシャルプランを立案
情報
- 紙の書籍をすべて裁断してスキャンし、裁断した書籍は廃棄
- 書籍は基本的に図書館で借りるよう変更、どうしても必要な場合は電子で購入
- 紙のメモや書類はすべてスキャンしてEvernote/Google Docsに登録、揮発性の情報はEvernote/Note、永続性の情報はGoogle Docsに
- RSSフィードの大半を削除
- メールマガジンをほぼすべて登録解除
- スマホのリアルタイム通知をほぼすべて消去
- 揮発性の通知をLINE Notifyに集約
仕事・スキル
- 必要性の定かでない「世の中で求められそうな」スキルを先取りして私生活で身に付けるのをやめ、必要性が見えてから業務時間中に習得するよう変更
- スキル習得に必要な書籍や研修はすべて会社の経費で賄うよう変更
- 無条件に仕事を受諾することを止め、要望に対して受諾できる条件を提示、必要に応じて交渉するように仕事のスタイルを変更
- スキルアップ・キャリアアップのために難しい仕事を積極的に引き受けることを停止
- 可能な限り在宅で仕事するようにスタイルを変更
- 惰性の飲み会はすべて欠席、世話になった人の送別のみ出席するよう変更
◆
こうして少しずつ確保した情報処理能力を使って自動化、情報の廃棄、物の廃棄を進めると、情報処理能力に余裕が生まれ、さらに整理を進める…という正のスパイラル、一種の複利効果が発生します。そうして少しずつ不要なものを切り捨て、複利効果を積み上げた結果、私は今容易には使い切れないほどの金銭・時間的リソースと処理能力の余裕を持つに至ったというわけです。認知資源、大事じゃないですか?
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