投資本の雑な感想:市場サイクルを極める
前のブログからのサルベージです。
原題は MASTERING THE MARKET CYCLE。誤解を恐れずものすごく平たく言えば、バイ&ホールドとタイミング投資の中間的アプローチで超過利潤を狙うものです。テンプルトンのようなバーゲンハント志向のバリュー投資家が取る投資行動の、裏に潜む状況判断の枠組みを「サイクル」という概念を使って整理した本といえます。
目次は次のとおり。
第1章 なぜサイクルを研究するのか?
第2章 サイクルの性質
第3章 サイクルの規則性
第4章 景気サイクル
第5章 景気サイクルへの政府の干渉
第6章 企業利益サイクル
第7章 投資家心理の振り子
第8章 リスクに対する姿勢のサイクル
第9章 信用サイクル
第10章 ディストレスト・デットのサイクル
第11章 不動産サイクル
第12章 すべての要素をひとまとめに--市場サイクル
第13章 市場サイクルにどう対処するか
第14章 サイクル・ポジショニング
第15章 対処できることの限界
第16章 成功のサイクル
第17章 サイクルの未来
第18章 サイクルの本質
4章~11章で相互に関連しあうサイクルについて説明し、12章~15章でサイクルをどううまく利用するかについて記載されています。
相互に影響し合う個々のサイクル
4~11章で説明される個々のサイクルは、市場や経済についてある程度詳しい人であればおおよそ知っていることばかりとも言えます。しかし、こうした整理の仕方は思考のためのフレームワークとして非常に使いやすいです。

サイクルの中で特に重視されているのは、リスクに対する姿勢のサイクル、投資家心理の振り子、そして信用サイクルです。これらは、ファンダメンタルの変化を大きく増幅する役割を果たすからですが、サイクル上で現在地を確認するのが比較的簡単、というのもあるかもしれません。
現在地のチェックリスト
より使いやすく、チェックリスト形式になっているのが以下です。左右どちらが多いかによって、ポートフォリオを攻撃的にするか防御的にするかを検討します。
景気 | 堅調 | 低迷 |
見通し | 明るい | 暗い |
貸し手 | 積極的 | 消極的 |
資本の需給 | 緩和 | 逼迫 |
資本 | 潤沢 | 不足 |
融資条件 | 緩やか | 厳格 |
金利 | 低い | 高い |
イールドスプレッド | タイト | ワイド |
投資家 | 楽観的 | 悲観的 |
血気盛ん | 意気消沈 | |
買いに意欲的 | 買いに無関心 | |
資産保有者 | 継続保有で満足 | 売りに殺到 |
売り手 | 少ない | 多い |
市場 | 活況 | 閑散 |
ファンド | 狭き門 | 誰にでも門戸を開放 |
次々に誕生 | 最良のファンドのみ資金調達可能 | |
ジェネラル・パートナーが支配 | リミテッドパートナーに交渉力 | |
最近のパフォーマンス | 堅調 | 軟調 |
資産価格 | 高い | 低い |
期待リターン | 低い | 高い |
リスク | 高い | 低い |
一般的な投資姿勢 | 積極果敢 | 慎重で規律的 |
幅広く投資 | 選別的に投資 | |
妥当な投資姿勢 | 慎重で規律的 | 積極果敢 |
選別的に投資 | 幅広く投資 | |
起こり得る過ち | 買う量が多すぎる | 買う量が少なすぎる |
有り金をつぎ込む | まったく買わない | |
リスクをとりすぎる | リスクをとらなすぎる |
サイクルとポジショニング
サイクル、ポジショニング、資産選択、超過リターンの関係を示した、本書の中心的なアイディアが以下の図です。

直感的には、サイクル上の位置に従って、ポートフォリオを攻撃的、もしくは防御的に組成しなおすことで、期待リターンを高めることができることになります。
さらに、スキルの高い投資家は適切な資産選択によってこのリターンの分布自体を右に歪ませることができます。言い換えると、下値は限定的でかつ、上値の大きいポートフォリオを組成することができるということです。こうした投資家は、攻撃防御の切り替えをしなくても市場をアウトパフォームする可能性が高くなります。
この2つを併せ持った投資家は世界最強ですが、ほぼ存在しません。確かに、目につく範囲で見回してもあまり見当たらない気がします。
全体的な所感
サイクル概念を用いた循環的要素の整理、ポートフォリオの攻撃的・防御的調整と組み合わせた超過リターンの狙い方(アンダーパフォームの避け方)がまとまった良書です。バリュー投資における鉄則的な話も幅広く語られつつ、おおよそサイクル概念の枠組みに落とし込まれているので、思考の枠組みを確立する1つの方法を学ぶのに非常に良い本だと思います。
ただ、注意しなくてはいけないのは、今がサイクルのどの位置にいるかを完全に知る方法はないし、ある程度特定できたとしてもその先確実に予期した動きになるわけではないということで、これは本書でも繰り返し語られています。このことから、サイクルポジショニングに全てを賭けて莫大な利益を得る、というよりは、サイクル位置に応じてポートフォリオを調整して超過利益を得る可能性を高め、あわよくば利益を得る、というスタンスが良いと思います。
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