早期リタイアへの備え(1):なぜ「備え」るのか


2016年にWordpressのブログ「早期リタイアに備えて暮らす」を開設して以降、その名のとおり早期リタイアの準備を重ねながら、その断片を少しずつ記事にしてきました(全部消えましたが…)。ブログ刷新を機に、何のために備えているのか、そして具体的に何にどう備えてきたのかについて改めて整理しておこうと思います。

早期リタイアを「目指す」じゃなく、「備えて暮らす」?

一言でいってしまえば、リタイアに備えつつ暮らすことは、リタイアそのものよりも格段に有利な状況を作り得るからです。

そもそも私は、何がなんでも早期リタイアしたいわけではなく、時間や場所、気まぐれな組織や上司の都合に過度に束縛されず、自由に暮らすことが目的です。仕事が嫌になって会社を辞めても、生活費を補填するために良くない条件で働かなければならなくなった場合、それは本意ではありません。

私の仕事はかつて非常にハードで、かつ組織の都合で次々と炎上プロジェクトに放り込まれ、定期的にパワハラ気質の上司に当たるという酷い状況でした。この頃は、自由になるためには会社に依存しないレベルまでプロフェッショナルとしてのスキルを高めるか、さもなくば仕事を辞めるしかないと思っていたものです。

しかし時代はかわり、ここ数年は楽なポジションに移動し、完全なリモートワークが実現し、裁量労働制も手伝って場所や時間にあまり囚われずに働けるようになりました。このため、今の仕事を続けながらでもほぼ目的が達成できています。

労働環境は思った以上に不安定

備えなんて必要なくなった、万歳!…かといえば、全くそんなことはないです。今の職務が楽といっても、会社全体をみわたせば常にどこかで炎上プロジェクトの種が蒔かれ続け、定期的に芽吹いて大炎上し、人が吸い込まれて長時間労働を強いられる状況は変わっていません。これは、会社のビジネスモデル上ほぼ避けられない事態です。

また、今の上司は比較的部下に裁量をもたせてくれていますが、これもいつまで続くかはわかりません。会社組織は大きく、マイクロマネジメント・ハラスメント気質の人も相当数残っています。人事異動により、いつまたこうした上司に割り当たるかはわかりません。

こうした社内事情だけでなく、コロナのような経済全体を巻き込むイベントでも労働環境は大きな影響を受けます。今回影響の大きかった業種は、短期的には政府の支援で持ちこたえてはいるものの、長期化すれば労働環境の急激な悪化、最終的には倒産や解雇も十分にあり得ます。また、過去不況が長引いた時期には労働者の立場が弱まり、人員が絞られ、ブラック化してきた歴史があり、十分な警戒が必要です。

このように、労働環境は不安定さと無縁ではいられません。

命綱は社会保障で十分?

不安定な労働環境が急激に悪化し、そこから受ける圧力によって会社から弾き出された場合、まず頼りになるのは雇用保険の失業給付や、状況によっては休業補償給付、傷病手当金等の社会保障です。これらはまさにセーフティネット、命綱として機能してくれます。

しかし、障害認定でもされない限りこれらはいずれ切れてしまいますし、その間は役所の判断や給付の打ち切り時期に不安をおぼえながら暮らすことになります。障害認定されるほどの状況は積極的に選びたい状況でないのは言うまでもありません。

崖沿いの隘路をゆかされ、万一転落してしまったとしても、社会保障があれば確かにすぐにはゲームオーバーになりません。しかし、転落後に時間切れで結局ゲームオーバーになる不安からは逃れられないということです。

早期リタイアに対する「備え」は、社会保障による時間制限つきの細い命綱を、より太く、恒久的なものに変化させる営みといえます。

「備え」はブラック圧力に対する強力な武器

早期リタイアに対する備えがあれば、そもそも転落が前提ですから、転落後も備えに従って休むなり、負荷の少ない仕事をするなり、趣味に生きるなり自由です。仕事をしながら自由を謳歌していられた頃に比べれば、社会的な地位や経済的な余裕は多少減るかもしれませんが、それでも不安なく暮らすことはできます。

さらに、備えは労働環境の悪化に対抗するための強力な武器にもなってくれます。絶対に転落できない場合には、上司の頼みは断りづらいですし、周囲からの評価を絶えず気にする必要があります。このため、上司や同僚の無茶な仕事の依頼を引き受け、不足気味のスキルで長時間取り組み、ブラック労働が慢性化していきます。これを避けようとすれば、仕事時間外に様々なスキルアップの勉強に取り組むことになり、慢性的にプライベートの時間を圧迫していきます。

もし転落に十分に備えていた場合…例えば仕事を辞めても十分に生きていける資産がある場合はどうでしょうか。上司や同僚の無茶な仕事の依頼も、断ったり、条件の変更を申し入れたり、そもそも仕事自体のあり方を考え直すように働きかけたりできるようになります。

「備え」を盾に仕事の条件を交渉する

例えば難しい仕事で自分に特定のスキルが不足しているなら、スキル習得時間を業務時間内に事前に組み込んだスケジュールでなければ受けられない、と交渉できます。それでもゴリ押しでやれるだけやってみろと言われれば、出来る範囲で仕事をして想定どおりに期限を超過するだけです。その責任は私ではなく上司にありますから、一切気にすることはありません。

私なりの交渉のポイントは、仕事自体は決して断らない、ということです。だいたいこんな風に話をしています。

  • 「私がこの仕事を受けるなら、このままの条件では要求どおりに終わらせることは難しいです。もし要求を満たしたいなら、〜できる人材をこの期間に〜名追加する必要があると思います。」
  • 「もしくは、この仕事自体の条件を〜のように変更できれば、私一人でも期限内に9割程度の確率で終わらせることができると思います。ただし、〜にリスクがありますので、これが顕在化した場合は期限を超過する可能性はあります。それが受け入れ難いようであれば、さらに期限を〜まで延ばすよう交渉するか、〜の準備をしておいて欲しいです。」
  • 「こうした変更を行わないまま私が受けるのであれば、だいたい〜のような結果になると思いますが、それでも構わないなら受けます、仕事ですから。どうでしょう?…いえ、頑張ってもさすがに難しいですよ。…少し考えてみてください。」
当然、自分の能力で要求を満たして完了できる仕事については快く引き受けます。

この交渉を有利に進めるには、交渉相手よりも実務について詳しいことが重要です。そのため、ある程度有望な職務であれば可能な限り同一のポジションを続け、自然に経験や情報が集積されていく体制を作ることです。また、自分には備えがある、ということを事前にさりげなく知らせておくことも重要です。

経験や情報で優位性を持てない場合は、まったくの無能として振る舞う方向に舵を切る手もあります。上司に対する優位性を、無能であるが故の開き直りと日本の強力な解雇規制を使って得るということです。これは社内の居心地が悪くなりがちなのであまりおすすめできませんが、ブラック労働があまりに辛く、直近の退職も視野に入っているなら有効な方法ではあります。

いずれにせよ、ハラスメント気質のヤバい上司に対しては、ハラスメントホットラインやさらなる上司への相談、労基の話を会話でふりまきさりげなくプレッシャーを与え、それでもおさまらないようであれば躊躇なく実行に移します。

「備え」はリタイアより優位な状況を作り得る

このように、早期リタイアに「備え」た状態を維持することは、場合によっては早期リタイアそのものよりも絶大な効果を生み得ます。リタイアはたいてい片道切符で、辞めてしまった後に以前の社会的地位や経済的余裕を取り戻すには大きな労力が必要です。しかし、備えを盾に自由と社会的地位と経済的余裕が得られるのであれば、一度しか使えない手札を早々に切ってしまうよりは、手札をちらつかせて望むものを可能な限り引き出す方が良いですよね。それでもうまくいかないのなら、実際に手札を切ってしまえば良いわけですから。


こうしたわけで私は、早期リタイアに備えつつ、手札を要所で使いながら暮らしている、というわけです。特殊な生き方だとは思いますが、業務や管理職以降の仕事内容に今となっては大した興味が持てない私にとっては、なかなか悪くない生き方ではあります。

次回以降は、実際にどういったことを想定し、何に備えているのか、現段階までのことをあらためて書き留めていこうと思います。

早期リタイアへの備え(2):3つの資本を準備する

早期リタイアに備えた人的資本、社会的資本、金融資本の準備

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